TOWEL STORY03

IKEUCHI ORGANIC

熱狂的ファンが支える、
ストイックなオーガニック。

池内 計司(いけうちけいし)氏
IKEUCHI ORGANIC代表。今治市生まれ。松下電器産業(現パナソニック)を経て、1983年池内タオル(現IKEUCHI ORGANIC)に入社し、第二代代表取締役社長に就任。現在は社長を阿部哲也氏に受け継ぎ、代表としてIKEUCHI ORGANICのブランディングに取り組む。

今治街道沿いに佇むIKEUCHI ORGANICの本社。モダンな四角い建物に掲げられた黄色いロゴマークが目に飛び込んでくる。

「2014年に社名を変更したときにこのCIをつくりました。ナガオカケンメイさんにデザインしてもらったときに、一番オーガニックを連想させない色にしようと」(池内計司代表)

オーガニックを社名に掲げながら、一番オーガニックを連想させない色。なんとも独特の考え方だ。このCI、「I」の文字の横棒は、かなり拡大すると直線ではなく丸みを帯びており、地球をイメージしているという。

独特の世界観が異彩を放つオーガニックブランド

IKEUCHI ORGANICは、今治の中でも、比較的早くから独自のオーガニック路線を打ち出し、1998年にはタオル業界初の環境マネジメント規格ISO14000を取得。年に何度も工場見学を開催し、そのユニークなスタイルに熱狂的なファンが集まるメーカーである。

全製品100%オーガニックコットンで作られ、生産に使われる電力はすべて風力発電。商品にはQRコードがついていて、スマートフォンでかざせば、綿畑から出荷するまでのトレーサビリティがわかるようになっている。

「風で織るタオル」
「コットンヌーボー」
「2073年までに赤ちゃんが食べられるタオルを創る」

ホームページを見ると、キャッチーなフレーズが並び、そのはっきりした哲学と独特な世界観が異彩を放っている。こんなブランドをつくりあげた池内氏とは、どんな方なのだろう。

「私たちは、ファンの方との対話を21年間積み重ねて、いまのIKEUCHIをつくってきました。ブランディングがうまいなんて簡単に言わないで欲しいと思いますね(笑)」(IKEUCHI ORGANIC代表 池内計司氏)。

穏やかなトーンで、ときにストレートな物言いをする池内氏。なるほど、この方がこのブランドをつくりあげたというのは妙に納得させられてしまう世界観を持っている。

ワインのように、その年の風合いを楽しめるタオル

「我々は全部同じコンセプトで物を作っています。デザインではなく、使い勝手が違うんです」(池内氏)

どの製品も、最大限の安全と、最小限の環境負荷という考え方は一緒。お客さんの風合いの好みがあるので、商品のバリエーションを作っている。どこまでも徹底したフィロソフィーだ。

しかしひとつひとつ見ていくと、IKEUCHIには個性的な製品も多い。例えば、『コットンヌーボー』というタオルは、その年に採れた綿しか使わないというもの。

「綿は農作物ですから、その年によって出来が違います。普通はいろんな綿をブレンドして作るものなのですが、その年の綿だけでつくったタオルが、このコットンヌーボーです」

それは、プロジェクトデザイナーの佐藤利樹氏が出してきた企画だった。

「最初は『こんなもの商品にならない』と思ってボツにしました。非常に難しいと思ったんですね」

しかし「毎年品質が違うことを逆にプラスにとらえる」という考え方はおもしろい。数ヶ月後、スイスの会社から「タンザニアオーガニックのコットンを使って欲しい」という申し入れがあったとき、この企画にチャレンジしようと思い立った。

「普通は断られるような難しい注文なのですが、なんとしてもタンザニアの糸を日本でデビューさせたいということだったので、その条件を受け入れていただきました」

コットンヌーボーの綿を作っているタンザニアの畑。

こうして2011年、その前年の綿だけで作られたタオル『コットンヌーボー』が完成。年号が入り、ワインのようにその年の風合いの違いを楽しめるという唯一無二のタオルが出来上がった。このコンセプトをおもしろく感じるお客さんもいて、新たなファン層が生まれたという。

毎年綿の出来によってさわり心地が違うコットンヌーボー。

ノボテックス社の色鮮やかな
オーガニックタオルとの出会い

IKEUCHIのオーガニックの基準は、3年以上無農薬の畑でコットンを作ること。フェアトレードであること。遺伝子組み換えが絶対に入ってはいけないということ。

「私たちはヨーロッパのオーガニックの基準に合わせています。日本のオーガニックに対する基準や表記は曖昧なことがあるので」

それは、1996年、デンマークのノボテックス社との出会いから始まった。

その頃の日本のタオル業界では、オーガニックというものは精練漂白をせず自然のままの色であるべきだという考え方が主流だった。しかしそれだと水を吸わないタオルになってしまう。

「対して、ノボテックス社が作っていたのは、色のついたオーガニックタオルでした」

ノボテックス社の考え方は、人体に安全で環境負荷の少ない染色を目指す「ローインパクト・ダイ」という考え方。世界最高水準の浄化施設を備えた染色工場で、色鮮やかなオーガニックを作っていた。その頃の日本にはないオーガニックの考え方だった。

「オーガニックは環境に優しいというイメージがありますが、すべてのオーガニックがそうとは言えません。環境に優しいのはあくまで農家とお客さんであって、タオルメーカーは環境に対して何もしていない。私たちはスタートしたときから、メーカーが環境にどれだけのことをしているか、常にものづくりに対して厳しい目でやってきています」

デザインは真似できても、
コンセプトは真似できない。

そもそも、そのような路線に行き着いたのは何故だったのだろう。1999年、海外デザイナーズブランドのライセンスものばかりだった時代、池内氏は自社ブランドを立ち上げようと思い立つ。

「いくら新しいデザインを出しても、同じものが海外から出てくる状態が続きました。それで、あるとき『デザインはもうしない』と決めたんです。デザインは真似できても、コンセプトは真似できない。そんなコンセプトを作ろうと」

そしてノボテックス社の考え方を踏襲し、開発した製品が、「オーガニック120」だ。

IKEUCHI ORGANIC自社ブランドの第一号、オーガニック120

当初、こうした自社ブランドは、日本ではほとんど受け入れられなかった。しかし数年後、アメリカで展示会を開いたところ、その日にクライアントがついた。それはオーガニックに対する意識の差というより、メーカーブランドに対する抵抗の違いだったと池内氏は語る。

2002年、IKEUCHIのタオルが、ニューヨークのニューベストアワードを受賞。それがきっかけで、翌年、テレビ朝日系列『ニュースステーション(現・報道ステーション)』で特集が組まれた。その瞬間、IKEUCHI ORGANICのサーバーがダウンするほど人が押し寄せた。そんなこともあり、その年の3月、伊勢丹新宿店や渋谷ロフトでIKEUCHI ORGANICのコーナーができた。タオルメーカーの棚ができるのは、当時では考えられないことだった。逆輸入のような感じで、IKEUCHI ORGANICのファンは日本にも増えていった。

変態と言われるほど、ストイックなブランドでいたい

日本のオーガニックはゆるい、という話があったが、それに対して池内氏はどう考えているのだろうか。

「もちろん、それを否定はしません。オーガニックの世界も多様化していて、それはそれでいいと思っています。ただしうちは、変態と言われるほどストイックなブランドでいたい。それを支えるお客さんがいますから」

その言葉通り、IKEUCHIのタオルに欠かせないのが、ユーザーとの交流だ。年に1度だけ本社工場で開催するファンイベントでは、池内氏自身が解説をしてまわり、エンドユーザーへ向けての説明会も、東京、京都、福岡で、1ヶ月半に1回のペースで行ってきた。コロナ禍では、オンラインで開催しているが、毎回多くのファンが集まる。当編集部も一度参加してみたのだが、誠実で詳細な製品への説明は、ブランディングの上手さというよりは、心の底からいい製品をつくった熱い思いが伝わってくるものだった。

「突き進まないと、ファンは離れていきますから。熱烈なファンを維持しながら、共感の輪を広げていきたいと思っています」(池内氏)

ユーザーからも活発に質問や意見が飛び交い、強い絆を感じさせられた。そんなファンの方々が自発的にコミュニティを立ち上げ、イベントをやったり、情報を共有しあったりもしているという。

本社の棚のタオルに添えられた個性的なPOPは、池内氏自ら書いている。

日本一古いビートルズファンがつくる
ビートルズ公認タオル

ところで気になるのは、打ち合わせ室に飾られているビートルズのタオル。ビートルズといえば、ライセンスを取るのが難しいとされているアーティストだが、なんとこれはダブルネームタグまでついたビートルズ公式の製品なのだという。

「僕は1964年に日本で初めてビートルズが報道された瞬間からのファンで、だから日本では一番古いファンだと思います。あるとき、イベントでビートルズのタオルをつくるのが夢だと語ったら、『そんなことできるわけないでしょう』と言われたんです。そう言われるとやりたくなる性分で(笑)。翌日アップル社に連絡してみたら、いとも簡単にOKが出たんです」

ビートルズは昔からオーガニック志向だったこと、いいタオルを作りたいと思っていたこと、そして池内氏がリアルタイムのファンだったことが功を奏した。

「これは型番をつけて売ってるんですけど、毎回001はポール(マッカートニー)のために取ってあるんです(笑)」

ビートルズの話になると、とたんに顔をほころばせた池内氏が印象的だった。

ビートルズのアルバムジャケットをモチーフにしたシリーズ。

ビートルズとダブルネームタグつきのタオル。

店舗では洗濯機が置いてあり、200~300回洗濯したタオルのサンプルも試すことができる。

IKEUCHI ORGANICホームページ
https://www.ikeuchi.org

IKEUCHI ORGANIC ショップリスト
https://www.ikeuchi.org/storelist/

オフィシャルWEBショップ
https://www.ikeuchi.org/webshop/