TOWEL STORY04

 

タオル生地の可能性を広げる
ものづくりへの情熱

渡邊文雄(わたなべ ふみお)氏(左)
渡辺パイル織物株式会社取締役。先代社長利雄氏と現社長千歳氏の長男。東京の大学に在学中、アメリカ カリフォルニアへ留学。大学卒業後NYへ渡り生地商社にてインターンシップを経験。アメリカ滞在中に綿花畑にて生産者と共に過ごす。取締役として、経営企画営業を担当する。

渡邊有紗(わたなべ ありさ)氏(中心)
渡辺パイル織物株式会社ディレクター。先代社長利雄氏と現社長千歳氏の長女。渡辺パイルへ入社後、ロンドンの芸術大学セントラル・セント・マーチンズでアートやデザインを学ぶ。イギリス滞在中にヨーロッパのものづくり産地を巡る。帰国後は同社の商品企画や営業、WEB運営を担当する。

渡邊千歳(わたなべ ちとせ)氏(右)
代表取締役社長。先代社長の利雄氏は夫。

西条市にある渡辺パイル織物は、まるでカフェのような佇まいだ。リースの飾られた看板を通り過ぎ、中に入ると、壁一面にコルクのような素材が貼られている。

「これは、糸を巻いていた木管というもので、桜の木でできています。数年前にここをリニューアルしたとき、長年工場に眠っていた木管を丁寧に洗い色のバランスを見ながら配置をしました。7400本必要でしたので、お付き合いのある他工場の方々からも譲っていただきました。」(渡邊有紗氏)

素材にこだわる会社であり続けるという意志を込めて、この新社屋の素材も丁寧に選び抜いた。

名物社長だった先代の渡邊利雄氏が、2019年11月に急逝。その後、妻の千歳氏が社長を務め、長男の文雄氏、長女の有紗氏が役割分担しながら事業を受け継いでいる。この日は、文雄氏と有紗氏が取材に応えてくれた。

■海外のメゾンとも共創。タオル地の可能性を広げる服地づくり

オリジナル商品のリラクシングウエア

打ち合わせ室には、タオルと一緒に、洋服や帽子などもディスプレイされていた。なかには、誰もが知る世界的ブランドのロゴが入った製品もある。

「先代社長の頃から、タオル地の可能性を広げる服地づくりを続けてきました。そうしたなかで、海外のメゾンからの依頼やコラボレーションも増えてきたんです」(渡邊文雄氏)

タオル屋さんが洋服を作る意味とは何だろう。素朴な疑問をぶつけてみた。

「簡単に言うと、タオル織機でないと作れない生地があるからですね。タオル織物はパイルを表現することが可能で素材の組み合わせ、加工の組み合わせで、いろんな生地の可能性が広がります」(文雄氏)

では、なぜ他のタオルメーカーは、あまり洋服の生地を作っていないのだろうか。

「タオル産地である今治ではタオルを専門とする業態が通例です。洋服の生地を作るという前例のないところから父が道を切り開いてくれました。洋服の生地とタオルの生地ではあらゆる面で作り方が異なり、また原料調達や生産管理、リードタイムなど多くの面で効率の悪い点があることも事実です。長い年月をかけて培ってきたノウハウがあるからこそ両立することが可能です。」(文雄氏)

そんな面倒なことをやってきたのは、ただものづくりが好きだから。タオルは値段や仕様の制約も多いが、洋服だとそれがほとんどない。世の中にないものが常に求められる。

「タオルは水を吸わないといけないから、基本的に綿を使いますが、服地だとその制約もないので、カシミア、シルク、麻など、いろんな素材を使って新しい表情が生み出せるんです。タオルの柔らかさを洋服に持って行ったり、タオル織機でないと織れない生地を靴などに使ったり、相乗効果を出せるのがおもしろいですね」(有紗氏)

前述したように、世界的に有名なパリのメゾンや、若者に人気の海外ブランドなど、誰もが知っているメーカーとのコラボレーションも多く、商品を見せてもらうと「これも渡辺パイルだったのか!」と驚くような商品もある。

「そういう仕事は、名前は一切出せないんです。他のメゾンに真似されてしまうといけないのと、縫製は海外なので、今治の名前はどこにも載ることはないのですが、実はけっこういろいろなものを手掛けています」(文雄氏)

■先代社長から受け継いだ ものづくりの姿勢

渡辺パイルがこうしたアパレル分野の展開もするようになったのは、1990年代、先代社長がヨーロッパの美術館で出会った生地に感動し、タオルだけではなく、タオル生地の可能性を感じてからだという。

「父はタオルが趣味みたいな人で、自分でも『フェチでオタクでマニア』って言ってたんですけど(笑)。旅先でも、スーツケース3個分くらいタオル買ってくるんですよ。タオルの研究者みたいな人でしたね」(文雄氏)

「経営者であり、研究者であり、芸術家のようだった父の後を、私たちで分担して継いでいるというような感じです」(有紗氏)

タオル製作をしていると、いつしか得意先しか見えなくなりがちだが、そうではなくて、その先の売り場や消費者とのコミュニケーションをとりながら、本当に使いやすい生地を作っていく。それが先代の考え方だった。

タオルマニアと言われるほどだった先代の利雄氏

「父がいる時から、催事の時には僕ら自身が店頭に立ってお客様のお声をいただき、デザイナーやバイヤーの方々とも頻繁にお会いしてものづくりへの意見交換を重ねています。月に1週間から10日は東京に行って、ご意見を聞いて、というのを繰り返してきました」(文雄氏)

エンドユーザーだけでなく、糸、織り、染め、加工などの専門家とのコミュニケーションも大事にする。分業制の中で、それぞれの現場にもきちんと行って対話を繰り返す。

「生地によっては、既製品の糸を使うのではなくオリジナルの糸から作ります。アメリカ、インド、ウズベキスタンなど、実際に現地を訪れて現地の状況や労働環境まで見て輸入を決めたり、さらに紡績加工の方ともお話しをして、こんな生地を作るなら糸を何回撚ると求める風合いに近づくのか、なんて、マニアックな話までしながら作ってきました」(有紗氏)

10年前、アメリカの綿畑を訪れた文雄氏

いまのようにトレーサビリティにスポットが当たる時代になる前から、そうしたものづくりを続けてきた。そうした当たり前のことを当たり前にずっと続けてきたから、信頼が積み重なってきた。それがあってこそ、渡辺パイルならではのものづくりができているのだ。

■使う人のことを考え抜いて生まれたタオル「ほわほわサンホーキン」

そんな渡辺パイルを代表するタオルとは?

「『ほわほわサンホーキン』という無撚糸のタオルがあって、本当に柔らかくて軽いタオルなんですけれど、無撚糸というのは毛羽が出やすかったんです。赤ちゃんや肌の弱い方が使ったときに、毛羽が鼻に入ったり、舐めたときに口に入ったりしてはいけないと考えて、なかなか発売できませんでした」(有紗氏)

納得いくものができるまで、何年も開発に時間をかけた。最適な綿を探し、撚りの回数を考え、それぞれの工程で最もマッチするやり方を練りに練り、その結果、脱毛率0.041という数値を達成。今治タオルブランド商品の無撚糸タオルの脱毛率基準が0.5%以下だということを考えると、画期的な数値だ。「使った後のことを考える」という先代のモットーが反映された、最も渡辺パイルらしいタオルが完成した。

「ほわほわサンホーキン」繊維長の長いサンホーキンという綿を使っているため吸水性も高い。

■同世代のクリエイターと、産地を超えたコラボレーション

そんなお2人が、これから力を入れていきたいのはどんなことだろう。

「いま、他の産地の、同世代のクリエイターとの取り組みも活発にしていて、さまざまなコラボレーションをするようになったんです。例えば、京都の手捺染、川越のビール会社、小豆島の縫製工場、和歌山のニット工場など、全国各地の異なる技術を持つ若いクリエイターとコラボレーションしています」(文雄氏)

例えば、川越のコエドビールとのコラボレーションでは、ビールで染めたタオルをつくった。ビールは、瓶に入っていると色がわからない。そこでタオルに染めて色を提示する。また、ビールは飲んだら終わってしまうものだが、思い出にタオルを買ってもらうこともできる。

コエドビールとのコラボ商品。
パイル生地に、京都の手捺染でプリントをしたもの

「コラボレーションするクリエイターの方々とは、国内外を問わず一緒にプレゼンへ出向くこともあります。海外のデザイナーも、私たちを見て、織りと染めの技術や産地を超えた同世代クリエイターの掛け合わせがおもしろいと言ってくださってます」(有紗氏)

そんな話をするとき、2人とも目を輝かせながら言葉を繋いだ。ものづくりオタクの先代の血は、若い世代ならではの形に変わりながら、受け継がれていた。

渡辺パイル オフィシャルサイト
https://www.watanabe-pile.co.jp/

渡辺パイル オンラインストア
https://www.watanabe-pile.jp/

今治タオル オフィシャルオンラインストア
https://imabari-towel.jp/shop/goods/ほわほわサンホーキン