TOWEL STORY09

 

やさしく実直なものづくりと、
高級タオルへの挑戦。

大成肇(おおなるはじめ) 高校卒業後、ソフトウエア開発を学び、その後ニュージーランドへ。23歳で今治に戻って家業に入り、35歳で社長就任。オリジナルタオルづくりや、高級糸を使ったプレミアムタオルの製作に力を入れる。今治タオル工業組合の青年部会や組合活動にも精力的に関わり、現在はプロモーションワーキンググループの委員長を務めている。

今治は大浜町の住宅街にある大成タオル。大きなロゴもなく、ひっそりと風景に溶け込む、昔ながらの工場である。

「創業者の祖父がよく『そういうものに金をかけるより製品にかけろ』と言っていたので…ま、それは言い訳で、問屋向けの商売に自社のロゴなんていらないというだけなんですけどね(笑)」

という代表の大成肇氏は、社長というよりは、若々しく爽やかな好青年という印象だ。

「今年47歳です。メーカーの社長の中では比較的若いかもしれないですね」

この工場内で特徴的な設備があれば教えてくださいと言うと、しばらく考えた大成氏は、正直に語る。

「…すみません、たぶんないです(笑)。どこにでもある設備ですべてをやっています」

少し前まであった古いシャトル織機も、つい最近入れ替えてしまった。建物は古いが、中にある機械は、最新のエアジェット織機ばかり。

この工場内で、深夜に大成氏1人で作業することもあるという。

「僕の代になってからは20台入れ替えました。普通、設備投資をするときは一度にやってしまうほうが効率がいいのですが、うちは『借金はするな』という家訓のようなものがありまして。それで1年に1台ずつ、入れ替えていったという感じです」(大成氏)

地道な会社なんですね、と言うと「うまいこと言えばそうかもしれないですね」と、どこまでも謙虚な大成氏。個性的な社長の多い今治タオルメーカーのなかでは異色の存在だ。しかしこの優しい性格こそが人を惹きつけ、大成タオルのものづくりを担うキーになっていた。

青年部会で試作した海島綿のタオル

1953年に創業した大成タオルは、ホテル用のリネン関係のタオルを中心に問屋向けの製造を続けてきた。1994年、創業者の大成昇氏(肇氏の祖父)から、哲夫氏(肇氏の父)が代表を受け継いだが、12年で肝炎を患ってしまう。

「当時、僕がまだ30歳で若かったので、叔父が社長に就任したのですが、その叔父も5年後に心筋梗塞になってしまい、2012年、僕が35歳のときに社長になったという流れです」

当時、今治タオルブランドが始まって6年ほど経ち、盛り上がっていた頃だった。その影響を受け、大成タオルでも徐々に一般向けタオルの製作を増やしていく。いまでは業務用タオルの比率は全体の10%くらいだという。

「特に意志を持ってオリジナルをつくるぞ!という感じではなく、流れに乗った感じでした。業務用で食べていけるなら、業務用で食べていきたかったんですけどね(笑)」

組合活動に参加し始めたのも、その頃からだった。

「それまで組合活動にはほとんど参加していない会社だったのですが、先輩に声をかけていただいて、僕の代から青年部会に行くようになりました。それまで自分の会社のことだけを考えていて今治タオル全体のことはよく知らなかったので、学びたいという気持ちがあって」

今治タオル工業組合の青年部会は、タオルメーカーや染色会社など、今治タオル関連の会社に在籍する45歳以下のメンバーが集まる若手組織だ。情報交換や交流、勉強会などを目的とし、毎年テーマを決めて定期的に活動している。大成氏は、その性格から多くの会員に慕われ、委員長、副会長、会長という役職を任されるようになる。

青年部会で副会長になったときの就任式

大成氏が会長だった頃の青年部会は、ものづくりに取り組もうという流れがあり、海島綿を使ったタオルの試作にトライした。海島綿は、世界で一番高価な糸で、バスタオルを作れば1枚3万円くらいの値段になってしまう。

「普通のメーカー1社でそんな高価なタオルを試作するのはなかなか難しいので、青年部会で実験的にやってみようということになりました。実際に販売もしましたよ」

そのときのノウハウは、大成タオルにとって大きな財産になっていった。

青年部会で試作・販売した海島綿のタオル

繊細で柔らかな30番単糸へのこだわり

そんな大成氏がタオルづくりでこだわっているのが、30番単糸の糸を使うこと。通常のタオルは20番手の糸を使うのが最もポピュラーで、30番手はそれよりも細い。細い糸を使えばタオルは柔らかくなるが、その分、繊細で毛羽も出やすくなるので、糊付けなど、製作過程でも気を使わなければならなくなる。

「業務用の世界では、30番の糸を使うにしても、撚って太くして使うことが多く、単糸で使うことはあまりないと思います」

しかも30番単糸に特化しているメーカーは珍しい。「30番だけ」と決めてしまうと、使えない糸も出てくるし、その分、自由はなくなる。何故30番にこだわるのだろうか。

「最初に30番単糸で作ったときに、これまで作ったタオルと全く違う風合いで、ふんわりと仕上がったので。こんな細い糸でもできるんだなと思って」

オーストラリア綿でつくったタオル

大成タオルを代表する製品は、この30番単糸を使ったシンプルサンホーキンというタオルだったが、原料のピマ綿の高騰により製造が難しくなってしまった。代わりにオーストラリア綿を使ってシンプルサンホーキンと同じ製法でつくったものが、写真のタオル。いまではシンプルサンホーキンに代わる大成タオルの代表製品になっている。

綿を変えたことで、思いがけないメリットもあった。このオーストラリア綿は、トレーサビリティが確保されており、農園から紡績工場までの出荷の追跡ができる。そこを評価され、アメリカのCotton LEADS(コットンリーズ)の認定を受けたのである。日本でもアパレル大手で認定を受けている会社もあるが、国内タオルメーカーでは、大成タオルが唯一の認定企業だという。

トレーサビリティを評価するコットンリーズ認定証

「高くても売れる」という確信が持てた
中野明海コラボタオル

前述の通り、30番単糸にこだわってきた大成タオルだが、さらに扱いが難しい40番単糸を使った商品もある。今治タオル工業組合が、2018年にヘアメイクアップアーティスト・中野明海氏とコラボレーションしたときの「肌と髪にとことん優しいタオル」の大成タオル版だ。今治タオルメーカー各社の個性を打ち出すことを目的にしたコラボ企画だったが、5年経った今でも人気で、ロングヒット商品になっている。

akemi nakano×ONARU TOWELのコラボ商品

このコラボの制作には、志願したメーカーのなかから中野氏と組合で選抜した4社(大成タオル、村上パイル、渡辺パイル織物、オリム)が携わった。

今治タオル 南青山店にて行われたコラボレーションタオル発表会

「手を上げたのは僕の判断でしたが、うちにしては珍しく、スタッフの意見を聞きながらタオルづくりを進めていきました。組合事業なのでみんなでつくっていきたいなと」

志願したメーカーが試作したものから、中野氏が4社を選抜。そこから中野氏の意見を細かく反映して各社が試作を繰り返し、タオルが完成した。

その中でも大成タオルの製品は、中野氏が一目で気に入り、1回のチェックでOKが出た。

大成タオル本社にて商品をチェックする大成氏と中野氏

「中野さんに気に入っていただけた理由ですか? …まあ、すごくいい糸を使ってますからね。風合いが違います」

紡績会社と共同で開発したオリジナルの糸「エレガントツイストフリー」の40番単糸を使用し、無撚糸にすることにより柔らかさを追求した。超長綿のアメリカンピマコットンを使用しているので毛羽落ちが少なく、毛羽落ち試験でもいい数値が出た。もちろんそれだけ価格も高くなる。大成タオルの製品の中でも飛び抜けて高い値付けとなった。

「でも、それでも売れたんです。いまだにリピートして買っていただいているので。高くても売れるというのがわかりました」

今治全体で、高付加価値なものづくりを

これからの今治タオルの行く末について、大成氏は語る。

「今治タオルブランドが始まって16年経ち、認知度もある程度浸透している状況です。これからもうひと段階乗り越えるためには、価格競争だけではダメで、高付加価値なものづくりを各社で取り組んでいくことが必要だと思っています」

現在、その取り組みのひとつとして、大成タオルでは、プレミアムタオルの試作を進めている。青年部会で試作した海島綿という高価な糸を使い、大成タオルが出せるマックスのパイル長で作った高級タオルである。青年部会と中野氏コラボの経験から学んだことが、このタオルにつながっているというわけだ。

海島綿を使った試作中のタオル

「僕はスポーツも好きなので、スポーツコラボなんかもやってみたいんですよね。特に学生の頃サッカーをしていたので、FC今治の選手を支援してみたい。でもそういうのも、自分の会社でというより、組合でやれないかなあとつい思っちゃうんですよ(笑)」

それは、今治タオル全体へ貢献したい想いからだろうか。

「いやいや、単に僕は目立つことをするのが好きではないんですよね。細々と長く、地道にいいものを作っていきたい。そっちの方がいいかなあ」

こんな大成氏だからこそ、さまざまな大役がまわってくるし、優しいタオルを作ることができるのだろう。北風と太陽の寓話を思い出してしまうような方だった。

大成タオル公式サイト
https://www.onarutowel.com/

大成タオルオンラインストア
https://shop.onarutowel.com/

akemi nakano×今治タオル「肌と髪にとことん優しいタオル」
https://imabari-towel.jp/shop/pages/nakanoakemi.aspx