TOWEL STORY06
エンドユーザーに近い
タオルの売り方を。
丸山要(まるやまかなめ)1958年愛媛県今治市生まれ。小さい頃は毎日学校帰りに糸巻きなどの手伝いをして過ごす。2002年に、創業者であり父でもある丸山春樹氏から丸山タオル代表を継承。今治タオルブランド開始当時から、理事として中心的役割を果たし、今治タオルを世の中に広げるため日々飛びまわっている。
作ったものを、直接消費者に届けたい。
「よく、仕事でストレス溜まるとか言うやろ? ワシは仕事ない方が無理(笑)」
というのは、丸山タオル代表の丸山要氏。今治タオルブランドが立ち上がったときから、理事として組合を支えてきた。
1966年創業の老舗メーカー・丸山タオルは、クオリティの高い素材を使いながらも、短納期で低コストなタオルづくりというメーカー本来の強みを持つ一方、東北での復興支援プロジェクトや、海外でのオーガニックコットンづくりに協賛したり、CSR活動も精力的に行っている。
丸山氏が目指しているのは、エンドユーザーに近いものづくりだ。自社ショップや組合のオフィシャルショップ、百貨店の外商のお客様など、消費者に近い流通経路をできる限り増やそうとしている。
「将来的には、100%は無理だとしても、少しでも直売を増やしていきたい。安くて、いいものを、安心して、お客様に供給したい。それがものづくりする人間の本来の姿じゃないですか」(丸山氏)
もちろん、問屋が必要な場面もある。問屋が商品企画をして全国に売ってくれるのはありがたいし、生産性もある。POSシステムなどもメーカーが作るにはコストがかかる。だからひとつのルートとして、うまく使い分けていけばいい。
「これから産地のブランドをどうやって伸ばしていくか。今治タオルブランドが有名になって、そのシャワー効果で今治全体が潤い、育って行った。各社各様に育ってきて、そのひとつとしてうちみたいな形もあるんじゃないかなと思っています」(丸山氏)
柔らかいのに毛羽落ちの少ない
「雲ごこち」
そんな丸山タオルも、以前はほとんどのタオルを問屋からの注文で作っていた。きっかけは13年前、今治タオルブランドが立ち上がったときに「雲ごこち」というタオルを自社ブランドとして開発した。その柔らかくて気持ちのいい肌ざわりは、まさに白い雲に身を委ねたような心地よさである。
「タオルは柔らかくすればするほど毛羽落ちも多くなるんですが、どうにか柔らかくて毛羽落ちの少ないタオルを作りたかったんです」(丸山氏)
そこで、繊維長が長い高級綿を、無撚糸にして使ったら、ふんわりと柔らかくボリュームのあるタオルに仕上がった。長いパイルは吸水性がよく、乾きも速い。
「その頃、1枚1,000円のタオルなんて売れるものじゃないというのが常識だったので、恐る恐る発売しましたが、徐々に今治タオルブランドの浸透とともに売れてきたというのが実状ですね」(丸山氏)
しかし、雲ごこちは、いまや今治タオルブランドのなかでは安価な方だろう。フェイスタオルで1,100円。バスタオルで4,400円。その柔らかさやボリューム、高級感のわりには、買いやすい値段に驚く。なぜこんなタオルを作ることができたのだろうか?
「それは何度も実験して、改良し、いいものを探っていったからです。うちは自社で撚り機を持っていますから、商業ベースではなく、撚り回数を変えたり、太さの違う糸を使ったりして、自分の会社で自在にタオルを作れるんです。これを業者に外注していたら、生産性が落ちるため難しいのです」(丸山氏)
自社で撚り機を持っているから、小ロットのサンプル制作も自在にできる。
染色以外の工程が一通りできる工場設備
撚り機だけではない。丸山タオルの工場には、糸撚りから織り、プリント、縫製まで、染色以外のタオル作りの工程を一通り行える設備を備えている。それにより、思い通りのものを何度でもやり直しすることもできるし、短納期で完成できるから、コストも抑えられる。いい循環が生まれる。
丸山タオルプリント工場の染料・顔料プリント機
対して、一般的に今治では、分業生産しているメーカーが多い。紡績工場で製糸された糸を購入し、織って、ミミやヘムを縫い、検品をして出荷する。染色やシャーリング、糊抜き、プリントなどの作業は、外注することが多いという。
「今治タオルブランドの特徴は、吸水性と風合いだと言われているけれど、そのいちばん大事な肝のところを全部人まかせにしていいのか?と思うんです」(丸山氏)
今治産地の分業制には、いいところもある。競い合い、助け合い、それぞれが特徴を出して切磋琢磨してきた。しかし、「いいものを安く売る」という丸山タオルの特徴は、このような分業で生じるコストを極力抑え、内製化することによって実現しているのも事実である。
丸山タオルには、1枚から印刷できるプリンターもある。赤ちゃんやペットの写真、お子さんがお絵描きした絵をプリントするなど、エンドユーザーが直接発注できて、世界で1枚だけのタオルを作ることのできるサービスだ。
ユーザーと直接ビジネスをする過程で、さまざまなニーズを理解することもできる。そしてまた新しいタオルが生まれていく。ここにもまた、いい循環があった。
一枚から印刷できるプリント機により、一般ユーザーもオリジナルのタオルが作れる。
「世界一のタオル」と、
東北コットンプロジェクト
おいしい料理をつくるには、いい材料が必要なように、いいタオルをつくるには、いいコットンが必要だ。そしていいコットンを調達するには、いい紡績会社が必要になる。オーガニックコットンといえば、大正紡績の近藤さんだと、丸山氏は言う。今治タオルの名誉ソムリエでもある近藤健一氏のことだ。
その近藤氏が、「このコットンは世界一と言い切れる」と言ったコットンがあった。オーガニック超長綿アルティメイトピマである。どういうところが世界一なのか。繊維長だ。世界一繊維が長くて、品質がいい。そのコットンからタオルを作り、「世界一のタオル」という名をつけた。糸にも艶があるし、しなやかで毛羽落ちも少ないタオルに仕上がった。
近藤氏との出会いは、丸山氏が今治タオル青年部会の会長になったときのこと。今治で綿を育ててみようという運動を始めたときに、近藤氏が賛同してくれた。
「普通の紡績だと、そんな少量の綿を糸にしてくれと頼んでも嫌がられるんですよ。でも近藤さんは、いい話だと快くやってくれてね。そこからのお付き合いです」(丸山氏)
ちなみに、そのときに作った綿でハンカチを作り、今治の小学生にプレゼントした。もう二十数年前の話だが、いまも今治で続いているプロジェクトだ。
「ワシが青年部会の会長になったら、ゴルフと飲み会が増えるだけだろうとみんな思ってたのに、そんなまともなことを初めて、『仕事が増える』『要ちゃんらしくない』と文句言われたことは覚えています(笑)」(丸山氏)
東北大震災の後には、近藤氏が参画する東北コットンプロジェクトに、丸山タオルも参加することになった。震災の後、津波で塩を被った畑や田んぼに、綿を植えるというプロジェクトだ。
綿は、塩けの土地に強く、除塩して土壌を修復すると言われている。それに近藤氏が目をつけ、「東北コットンプロジェクト」を立ち上げた。被災農家、企業がチームとなり、原料となるコットンの栽培から製品の販売までを行う活動である。丸山タオルは製品化に協力し、その綿を使ったタオルをつくっている。
忙しいなかでも自ら東北に出向き、綿を植えたり、収穫祭にはバーベキューをやって楽しんだりもした。それがたまたま販売チャネルにマッチしてビジネスになったこともある。そういうストーリーのある糸なら、販促品に使われることも多い。
「それを当て込んだわけやなくて、近ちゃんに誘われて、綿を作るのが好きやから参加しただけなんですけどね(笑)」(丸山氏)
どんな不景気でも社員の給料は上げる
「いまが100点とは思わん癖がある。明日はもっと良くしていきたい」
行動力があって、精力的。遊ぶように働き続ける丸山氏。仕事の話をすると率直に厳しい意見を言う反面、社会や消費者への視線は、限りなく優しい。
「この不景気に、社員が2人、車買い替えたんです。そういうことが嬉しくてね」(丸山氏)
コロナ禍ではどこのタオルメーカーも苦戦していたが、「どんな不景気でも社員の給料は上げる」というポリシーもある。社員カツカツにして何が経営者や。そのために、どんなことをしても利益は出す。それでこそ地域に恩返しできると思っている。今回のコロナ禍では、すぐに自分の給料を下げたので「いまはカミさんの給料の方が高い」と笑う。
「オリジナルのタオルが欲しくなったら、いつでも連絡してください。1枚からプリントしますから」(丸山氏)
私たち編集部にも、何度もそんな言葉をかけてくださった。そして取材が終わると、また仕事の話を社員に投げかけながら、忙しなく工場の中へ消えていった。
丸山タオル オフィシャルWEBショップ
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