2023.10.02 |移住者特集③_kaberi 加賀智晶さん

しまなみの景色のなかで、
今治の魚のおいしさを広めたい


加賀智晶(かがともあき)

Tomoaki Kaga

今治を拠点に活動中のキッチンカー『kaberi』のオーナー。京都・ニューヨークの和食店で経験を積み、瀬戸内の海の幸をフィッシュバーガーにアレンジ。しまなみの恵まれた自然の魅力を、食を通じて発信しつづけている。




2023年、宝島社『田舎暮らしの本』で、「住みたい田舎ベストランキング」(人口10万人以上20万人未満のまち)で全部門1位に輝いた今治。IMABARI LIFEでは、今治の移住者への取材を連載しています。第三弾は、今治の食材を使ったハンバーガーを販売するキッチンカー「kaberi」の加賀智晶氏のところに伺いました。

アメリカで働いたのは、魚釣りがしたかったから

この前、今治港100周年のときの「せとうちみなとマルシェ」に出店されてましたよね。あのとき取材をお願いしたのですけれども(記事リンクは文末)、めちゃくちゃおいしかったので、今回もこの松山(城山公園)まで取材にやってきました。すごく魚もフレッシュでおいしいですよね。
加賀智晶さん(以下、敬称略):ありがとうございます。

人気のかき揚げバーガー



今治では、魚屋さんから始めたとおっしゃってましたよね。
加賀:15年近く前に結婚して今治に来たときに、妻の実家が今治で魚屋をしてまして、その流れで僕も一緒に仕事させてもらった感じです。2009年に日本に帰ってきて、そのまま今治に来ました。
奥様のご実家があるから今治にいらしたんですね。移住しようと思っていらしたのですか。
加賀:そうですね。私、京都の生まれなんですけど、一度出たのにまた京都に戻るのもなんだなと思って。どうせなら、何か新しいものを見たいという感じで。
その前に、京都とニューヨークで修行されていたとか。
加賀:京都で高校を出てすぐに、ちょっとした居酒屋で働いていたのですが、もっとちゃんと料理したいと思ったのと、元々アメリカとか海外に行きたいという思いがあったので、京都のうどん屋さんに転職しました。そこがニューヨークにも支店があるお店だったというのもあって。3年働いて、アメリカに行ったのは、21歳ですね。

この日は松山市城山公園に出店していたkaberiの加賀シェフ



海外に行きたかった理由はありますか?
加賀:これまた変な話なんですけど、魚釣りが好きで、魚釣りしたくてアメリカに行きたいという、不純な動機でした。ブラックバス釣りは、アメリカが主流なので。それから5年いましたね。
5年いて、釣りも相当されたんですか。
加賀:そうですね。
いま出されてるかき揚げは、そのときの修行の賜物なんでしょうか?
加賀:はい。日本で修行していた頃から、やっぱりうどんにかき揚げは外せない存在ですし、自分の中でも好きな料理なので。

今治は知らない魚が多くて、
ただただ楽しい日々でした

帰ってきたのはどういうきっかけだったのですか。
加賀:ふとした時に、「親孝行もせずに自由奔放に生きさせてもらったな」と感じたのと、自分一人の力でそこまで行けなかったなという現実をいろいろ見まして。ちょうどビザ更新の時期に、いまの妻とニューヨークで出会って、結婚を決めたきっかけで、一度帰って、仕切り直すのもいいんじゃないかなと。
今治に帰ってきて、奥様の実家が魚屋さんで、そこで修行されたのですか。
加賀:修行っていうほど大変だった思いは全然ないですね。魚が好きで、小学校の頃から魚のことばっかり考えて生きてたんです。京都で生まれ育って、ニューヨークに行っても、海の魚ってそんなに触れることが少なかったんですけれども、いざ今治に来てみると、「こんなに魚って種類あるんだ」っていうくらい、知らない魚が多くて。食べ方や、鮮度の見方など、いろいろ学べましたし、ただただ楽しい日々だった気がします。
さかなクンみたいなタイプなんですか? さかなが好きでたまらないという。
加賀:そこまでのめりこんでるかと言われたらおこがましいですけれども、好きではありますね。
見るのも食べるのも好きという、魚に関することなら全般的に好きということですよね。
加賀:間違いなく。


じゃあ、今治はそうした嗜好に合っていたんですね。
加賀:そうですね。一時期天職かなと思ったくらい、すごく楽しくしてましたね。
このキッチンカーを出そうと思われたのはいつ頃なんですか。
加賀:5年前くらいです。このお仕事を始めて4年目に入った頃かな。今治に移住してからは13年ですね。
12~13年、奥様の実家の魚屋をずっと手伝っていたんですね。その時に、魚のことを調理方法も含めて知り尽くした感じですか。
加賀:知り尽くしたって言ったらあれですけれども、ある程度は。

とことん今治産と愛媛産にこだわったキッチンカー

キッチンカーを始めようと思ったのはなぜなんですか。
加賀:今治来てから、十数年魚屋にいるなかで、漁獲量の減少を身をもって感じまして、なんとかせないかんよねと。
それは、売れないからってことですか。
加賀:いろんな要素があって、漁獲量も減ってるし、需要も減ってるしというとこですね。まずは何より、いまは取れないというのが一番の問題ですね。漁師さんが一日漁に出ても、魚の量自体取れない。
それはどうしてなんですか。温暖化とか?
加賀:いろんな環境の変化ですね。温暖化だけとも言えませんし。
そこからキッチンカーに結びついたのは?
加賀:僕がキッチンカーを始めた当時、コロナ前で、オリンピックも控えていて、インバウンドのお客様がたくさん来られてて、その方々に、しまなみ海道でもっと魚を食べてもらいたいなと思ったのです。素晴らしい食材に触れていただくことで、環境の変化と言うことに関しても、ちょっとずつ興味を引いていただけないかなと。
壮大な考えがあったんですね!
加賀:なかなか、まだ駆け出しなので、そういう風に持っていきたいなというビジョンが、そもそものきっかけではありました。
魚のハンバーガーを作ろうという構想は、ぱっと浮かんだのですか。
加賀:そうですね。自転車でサイクリングされてる方が多いというのと、どうせならしまなみの景色を見ながら、外で召し上がっていただきたいというのと、食べやすいものでというので、バーガーだよねと。バーガーって思い立ってから試作する中で、今のスタイルに行きついたということです。


キッチンカーありきなんですね。外で食べてほしいみたいな。
加賀:そうですね。飽きっぽいので、いろんなとこでやりたいなって言う。
店舗を構えたいという気持ちはないわけですね。
加賀:いまのところ、そういう思いは全然ないですね。
確かに、この食事のおいしさとキッチンカーの雰囲気ってすごく合ってるんですよね。最初は、どのあたりでやられてたんですか。
加賀:それこそ松山の公園で出させてもらったりとか、もういろんなイベントに、こちらから営業かけて、出させてくださいとお願いして、ちょっとずつ横のつながりを広げていって。そうしていく中でテレビの取材とかきていただいたり。
おいしいから評判を呼んで、取材が来たのですか。
加賀:使ってる食材とかも含めて、すごく珍しかったのかなと思います。とことん今治産、愛媛県産でやりたいなというのが思い立ったので。やっぱり観光で来られた方に、愛媛のものを食べていただくというのが念頭にあったので。


魚だけでなく野菜やパンも地元の食材にこだわっている



いつも仕入れはどこでやってるんですか。
加賀:産直の今治の「さいさいきてや」さんとか、地元の漁師さんにお願いすることもあったり、知り合いの魚屋さんで声かけてもらって見に行ったりとかしていますね。
食材が入らないってことはないのですか。
加賀:全然ありますよ。頭抱えますけど。
その場合は、店閉めるわけじゃないですよね。
加賀:いま冷凍の技術も進歩していて、魚屋時代にそういうことも勉強したので。いかに上手に保存して、おいしく食べられるかというのも考慮したうえで、メニューを考えているので、ある程度は冷凍保存で対応できるようにはしています。漁獲量が減っているのも含めて、今後は、生の状態でお魚を食べられる、魚で天ぷらを作れるということは、究極に贅沢になっていくんじゃないかなと思っているので。
人気メニューは真鯛の炙りチーズサンドと、かき揚げだと伺いましたが、これはわりと最初からあったメニューですか。
加賀:わりと最初からにはなりますね。



食べた方の声とか聞きます?
加賀:よく聞きはしますね。作ってるところがお客さんから見えるので、通りすがりの方に「美味しそう」って言われたり、食べた後に、わざわざ帰ってきて「美味しかった」って言ってくださる方も結構いらっしゃいましたし。自分で作って自分でお出ししてるので、すぐリアクションが見れて、良くも悪くもプレッシャーの中で頑張ってます。

同じ思いの人とたくさんつながりを持てた

今回取材に伺ったのは、今治が移住したい町ランキング一位になって、移住者特集をやろうというので、色々聞いていこうというところだったんですけど、今治の魅力ってなんだと思いますか? 先ほど「魚」という話は伺いましたが。
加賀:お魚もそうですが、広くいう「自然」ですよね。ちょっと海見たいなと思ったら自転車で行ける範囲で、ぼーっと海が眺められて、日本海とかと違って島があって、船が沢山通って、とっても穏やかな空気を感じられて、また頑張ろうと思えたりします。人間の文化ってところでいくと、やはりどこに移住してもしんどいというか、大変なことは沢山あると思うので。
人付き合いとかは京都の方って、人との距離感が他の土地と違うような感じが、イメージがありますけど、そういう意味では嫌だなとかないんですか。


加賀:僕なんかは、京都の人間で、そう言われる側なんですけれど、皆そんなに変わらんのじゃないかなって思いますね。地方に行くとそれなりに地方を出たことがない方が多いですし、まあそういう人らって無意識の内に、閉鎖的というか…「自分の環境が普通」という捉え方をすると思うんです。移住にトライする人ってわりと柔軟性はある方だと思うんですけど、自分がいくら柔軟性あっても、地元の特有の空気を変えることは出来ないので、自分が変わって馴染むだけなら簡単なんですけど、その町で何かをいざしようとすると、かなり大変だとは思いますね。
このビジネスをやるにあたっても、わりと壁はあったりはしました?
加賀:このビジネスに関しては個人でやってるだけなんで、いまの時点で何もないんですけど。さっき言ってたように、この今治の経済を盛り上げたいとか、自然の資源の保護を何かしたいってときには、なかなか大きな壁があるのかなと、現時点では思っています。そういう意味で、スタートとしてはすごくやりやすいものを始めて、横に広がっていったんですけど、そうした中で「あ、個人でやってるそういう思いの人がたくさんいるんだな」という繋がりを持てたのは今までの経験値として、かなり有意義なものだと思ってます。
じゃあ、ここからその繋がりを生かして、そのビジョンを叶えていこうみたいな感じですか。
加賀:そうですね、それも可能じゃないかと。その流れは間違いなく来てるんだなって、最近は感じてますね。
やっぱりその自然保護みたいな活動を、これからこの事業以外にもやっていきたいなって事ですよね。
加賀:思いはありますね。まあ偉そうなこと言ってるとあれなんで……。
素晴らしいですね、どちらにお住まいなんですか。
加賀:はーばりー(みなと交流センター)の前なんですよ。
あ、港マルシェの場所から歩ける距離なんですね。じゃあ本当は、わざわざ松山まで出るよりも、あちらでやったほうが近いんですね。
加賀:まあ正直、はーばりーは、普段やってても誰も歩いてないんで(笑)。
そうなんですか!?土日は人はいるんですか。


加賀:あんまりいないですね。あんないい場所なのにね。
先日は、イベントだからあんなに人がいたんですか?
加賀:そうです、そうです。いいところなんですけどね。穴場ですよ(笑)。横浜とかだったら、ただただ海辺のテラスで珈琲飲むだけで皆来るじゃないですか。でも今治だと、あまり来ないですからね(笑)。不思議やなあと思って見てますけど。
東京でも、ちょっと気持ちいい屋外でキッチンカーとか居れば、すごい人になりますけどね。
加賀:それこそニューヨークなんかは、人が歩きまくってる路上で珈琲飲んでるじゃないですか、それ思えばね、なあんで誰も来んのかなあ、っていう。まあでも、地方では、黙っておきたいよねっていうのはありますね、たぶん(笑)。来られてる方は少なからずいるけど、人には言わないかなっていう感じですかね。
SNSで「ここに来ました!」っていうのはないんですか?
加賀:あまり見ないですね、「#はーばりー」で付けてもあんま出ないですよね。みなとマルシェみたいなイベントだと多少上がりますけどね。勿体ないですよね。はーばりーもあんなに綺麗になったので、もっと皆さん来ればいいのにって思いますけど。
でもまだ、今治にはポテンシャルがいっぱいあるということでもありますね。先日あのイベントを取材して、このバーガー食べて、「え、こんなの月に二回あるって、なんて羨ましいんだ!」って思いました。
加賀:ああ、そう言っていただけたらもう…。はーばりーの屋上って行かれました?
屋上は行ってないです。
加賀:めちゃくちゃいいんですよ。ぜひ今度行ってみてください。

キッチンカーを大きくしたら
東京へも行けるかもしれない

じゃあいまは、どちらでやることが多いですか?
加賀:愛媛県内で、東予行ったり西条行ったり松山行ったり、いろいろ行っていて。土日は全部イベントみたいな感じで呼んでいただいていて。それで今治・東予・西条行ったら週5日くらいになっちゃうので。
イベントというのは、この前の『みなとフェスティバル100』みたいなことですよね。平日は、気ままにいろんなところに行く感じですか?
加賀:そうですね。Instagramで月の予定だけアップしてて。でも食材のこともあるので、あまり遠出して沢山売って帰って来るということは出来ないですよ。
食材が無くなったらどうなるんですか。
加賀:家に帰ります。といっても、平日でなくなることはほぼなくて、それくらいの量は積めるんですけど、遠出して稼いで帰るほどは積めないので。うちの場合は、食材を大切にしているので。パンも今治のパン屋さんで焼いてもらってますし。だからキッチンカー大きくしたいなと思ってますね。大きくしたら、もしかしたら県外にも出られるんじゃないかと。
食材をいっぱい積みたいからという事ですね。
加賀:同じしまなみ海道でも尾道側に行けるんじゃないかなと、思ってみたり。瀬戸内の食材なので、そういう感じで岡山とか香川県も行きたいなっていうのはありますね。
いいですね、東京にも来て欲しいですけどね。
加賀:行きたいですね。トラックさえ大きくなれば可能性はありますね。あとはイベントで呼んでもらえれば。
それは素晴らしいですね、このおいしさは、東京でも大人気だと思いますよ。その日を楽しみにしています。今日はありがとうございました。
加賀:ありがとうございました。
kaberi.shimanami(instagram)
https://www.instagram.com/kaberi.shimanami

せとうちみなとマルシェ
https://setouchi-mm.com

kaberiさんに取材をお願いした今治港100周年記事
https://www.imabaritowel.jp/imabari_life/report/imabari_life/report5752

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