2018.12.10 |造船の町で船の誕生の瞬間に立ち会おう|今治レポートVol.11

造船の町で
船の誕生の瞬間に立ち会おう。

IMABARI LIFEでもこれまで何度か訪れてきたしまなみ海道ですが、走っていると海岸線にはそこかしこにそびえ立つクレーンが目につきます。
このクレーンのほぼすべてが造船のためのものであること、ご存知でしたか?

実は、今治市は世界でも類を見ないほどの海事都市。造船業・海運業・舶用工業など、合わせて約500社以上の海事関連企業が集合しているのです。古くから海運・造船の町として栄えてきた歴史があり、来島海峡の急潮を進む船が数多く立ち寄って「潮待ち」を行う間に船舶修繕を行ってきたことがその始まりとも言われています。

また、波止浜地区をはじめ瀬戸内の島々では塩田での塩づくりが盛んに行われ、それにより交易が盛んになったことも海事産業を発展させた一因だとか。(伯方島に本社がある「伯方の塩R」さんも有名ですね!)

こうして発展した今治の造船業は、現在では造船建造量日本一を誇り、なんと国内の3隻に1隻が今治で作られている計算になります。

今治を古くから支えてきた一大産業である「造船業」。

今回は、そんな造船所の製造工程の中で最も華やかな一大イベント「進水式」が行われるということで、「しまなみ造船」さんにやってきました。


触れられるほどの距離で見上げる
船の迫力

しまなみ造船 笠原さん(左)と阿部さん(右)

伯方島に工場を構えるしまなみ造船さんは、今治造船グループの一員。およそ東京ドーム2個分の敷地で、中型船舶を1年の間に7~8隻ほど建造しています。
この「進水式」は、船が初めて海に出るセレモニー。1か月半に1回のペースで実施されており、しまなみ造船さんでは一般公開されています。

「そもそも住宅との距離が近いので、道を通っているだけで船も進水式の様子も良く見えるんです。これだけ大きなものは、どっちみち見えてしまうので、それなら是非皆さんにも楽しんでいただいた方が嬉しいと思って」

朗らかな笑顔でご案内してくださったのは、「しまなみ造船」総務課の阿部早暁さんと笠原綾太さん。

進水式の前に、特別に少しだけ工場と船を近くで見せてくださいました。


わぁ、分かってはいましたが、やっぱり大きいですね!

「はい、そうですね(笑)
今回の進水式の船は、全長約180メートル、型幅29.8メートル、型深15メートルの撒積貨物船(ばら積み貨物船)です。
しまなみ造船ではこの規模の船舶をよく造りますが、一隻一隻がオーダーメイドなので、設計図を元に都度調整をしながら建造しています」

慣れた様子で構内を案内してくれるお二人ですが、そこには圧倒されるほどの巨大な船が・・・
まるで入り口も窓もないビルの周りを歩いている気分。近くに行くと本当に大迫力です!
船はもちろんですが、それをつくるクレーンがまた大きい。こんな巨大な重機の下をくぐって通ることなんて、なかなかありません。

クレーン下をくぐりながら工場内へ

工場の奥側からは、式典を待つ船の船尾が見える

進水後に設置する次のブロックが準備されている

ほんの一部のブロックだけでも軽トラックと比べるとこんなに大きい!
これでは船を1隻造るのに、いったいどれくらいの工程と期間がかかるのでしょうか・・・想像もつきません。

「最初は1枚の鉄板から造っていきますが、大体半年で1隻が完成しますよ。
工程としては、鉄板をカットして、それをある程度組み立ててブロックにし、造ったブロックを船台に取り付けていくようなイメージです。ブロックからの組み立てなら、1週間くらいで形になってきますね」

え!半年ですか。鉄板から始まって半年でできるなんて、思ったよりずいぶん早くて驚きです。

「本当に多くの方々が関わって、ノウハウを最大限に活かしながら造っていますので。協力会社の皆さんも含めて、この船の建造におよそ600人の人が携わってるんですよ」

そう語るお二人の視線は誇らしげで、ハレの舞台を待つ船を眩しそうに見上げていました。

圧巻のスケールで展開する
船のハレ舞台

今回の式典の名称は、正しくは「命名進水式」。造船所で建造している船に名前が与えられ初めて海に浮かべるというセレモニーで、言わば「船の生まれる日」。古くから行われている伝統的な儀式でもあるそうです。


船の前に設置されたステージに船主やゲストの皆様が集まり、いよいよ式典のスタート。

今回の進水式は「船台式」。
そもそも造船には、船台建造・ドック建造の2つの建造方法がありますが、しまなみ造船さんでは今では数の少なくなった「船台式」での建造を行っており、船台を滑っていくタイプの進水式となります。グループ企業内でも唯一の「船台式」だそうなので、滑りゆく船の様子はここでしか見られないんですね。どんな風に船が動いていくのか、興味津々です。

船主は「洞雲汽船」様、しまなみ造船さんでは何度も建造されているリピーターさんとのこと。
式典にも50名を超える沢山のゲストの皆様がご来場されています。

開会の言葉と共に、工場の責任者の「準備完了」の言葉を受け、国旗掲揚のもと船の名前が発表される時が来ました。

「本船を“SILVER OAK”と命名する」

除幕されて名前が発表される瞬間に舞うバルーン

命名の宣言と共に船首にかけられた幕が外されます。

今回の船につけられた名前は「SILVER OAK」。
それぞれの船主さんが想いを込めて付けた名前が、初めて公表される瞬間です。

命名の儀式は、指名を受けたゲストがこちらを読み上げる


そして式典はいよいよクライマックスの「支綱切断」へ。船舶を造船所につなげている「支綱」を銀の斧で切断する儀式です。銀の斧を使うのは日本独特の風習で、古くから悪魔を振り払うといわれている縁起物。左側に彫られた3本の溝は三貴子、右に彫られた4本の溝は四天王を現しており、進水に際してれぞれの神のご加護を仰いでいるとのこと。
神聖な儀式であることが道具からも伝わってきますね。


3本の溝がアマテラス・ツクヨミ・スサノオを表す。

支綱切断の瞬間
支綱はくす玉・シャンパンなどにも繋がれている。


たくさんの想いのなかで、新しい船が生まれる瞬間。

司会者の「支綱切断」の合図と共に、斧が振り下ろされてからはセレモニーも最高潮へ!
叩きつけられたシャンパンが力強く割られ、トリガーの外れた船は大きなサイレンやファンファーレと共に一気に海へと滑り出します。
祝いのくす玉と紙テープ、風船が空へと舞い上がり「わぁ」っと船主の皆様だけでなく、一般の観覧者からも大きな拍手と歓声が。

目の前で大きな音と共に動き出す船はまさに大迫力の一言!新しい船の誕生の瞬間です。
こうして海に浮かんだ瞬間、初めて「船」として認められるのだそうです。

着水した船は、タグボートで別の場所に運ばれ、最後の仕上げを行っていきます。

進水完了報告で締めくくられた式典。記念撮影の後も、海に浮かぶ船を眺めながら、笑顔で会話をされている船主の皆様や現場スタッフの方々の様子に、携わるたくさんの人たちの想いを感じ胸が熱くなりました。


成功の喜びと達成感を噛みしめる瞬間

「私たちにとって造船は本当に身近な産業で、小学校の課外授業で進水式を見に行ったり、家族・親族が造船業の関係者だったり、特別なものだと感じたことはなかったのですが、遠方からわざわざ見に来て下さる方やいつも楽しみにしてくれている方々を見ると、やはり嬉しくなりますね。」

大きなクレーンのある風景が日常だったという伯方島出身の阿部さんがそう言って見せてくれたのは、船の名前が刺繍されたタオル。セレモニーの後、船主の皆さんにプレゼントとしてお渡ししているそうです。

「今治の海運・造船は、船主さんや協力会社の皆さんなど、本当に多くの地域の人たちに支えられてきた歴史があります。
これからはさらに、陸上・海運が手を組んで今治全体の魅力をもっと輝かせていくことができればと思っています」

人の想いと技術が受け継がれて伝統となっていくところに、今治人のモノづくりの真髄を感じました。

船名などが刺繍されたタオル。


今治の海事産業を体験できるイベントが
今後も目白押しです!

そんな今治の風土を感じることができる大迫力の進水式。
最初にもお伝えした通り、しまなみ造船さんでは進水式の一般公開を行っているのでどなたでも見学することができます。

2019年5月には、今治タオル 本店のある「テクスポート今治」を含む3会場で、西日本最大の国際海事展「バリシップ」が行われます。
ビジネスイベントはもちろんですが、一般公開日も設けられており、展示会だけでなく工場の見学も企画されていて、普段見られない造船所内等が見学できます。

大規模な造船という海のロマンに触れられる滅多にないチャンス、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
しまなみ造船
ホームページ:http://www.shimanami-shipyard.co.jp
※進水式の詳しい日程はお問い合わせください。
バリシップ2019 (BARI-SHIP 2019)
日 程 :2019年5月23日(木)~ 25日(土)
会 場 :テクスポート今治/旧今治コンピュータカレッジ / フジグラン今治(入場料:無料〈登録制〉)
ホームページ:https://www.bariship.com/ja-jp/
今回の進水式の様子を一部動画でご覧いただけます。 [ https://youtu.be/NzJseKjHLv8 ]

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