2025.07.28 |大三島でしか飲めない感動的においしいビール。

大三島でしか飲めない
感動的においしいビール。

高橋享平
(たかはしきょうへい)

Kyohei Takahashi

愛媛県松山出身。高校までを松山で過ごし、大学進学のため上京。大学時代にクラフトビールにハマる。箕面ビールが作る黒ビールのおいしさに感動し、箕面ビールで働くために大阪へ。妻の田舎暮らしがしたいという希望を受け、田舎での独立を決意し、愛媛県の大三島へ移住。2018年に大三島ブリュワリーをオープン。

高橋尚子
(たかはしなおこ)

Emi Kusano

富山県出身。高校までを富山県で過ごし、大学進学のため上京。舞台音響の業界へ就職したが、結婚を機に退職。夫のいる大阪へ移り、共に箕面ビールで働く。旅行で訪れた屋久島に心を奪われ、田舎暮らしを夢見る。夫と共に田舎での独立を決意し、大三島へ移住。2018年に大三島ブリュワリーをオープン。

大三島の参道を歩いていくと出現する地ビール屋さん。古民家を利用した店舗ではあるものの、すてきな雰囲気で、入ってみたくなるワクワク感のある佇まいです。しかもここでのビールや柑橘ジュースの味わいは、感動的なおいしさ。今回はそんな大三島ブリュワリーを取材しました。

「町の豆腐屋さん」
みたいな店が
やりたかった

大三島ブリュワリーを営む高橋夫妻

よろしくお願いいたします。もともと私たちが大三島の取材に伺ったとき、こちらに寄ってご挨拶したのがきっかけで。すごくおいしいと思って取材させていただこうということになりました。
高橋尚子氏(以下、敬称略):ありがとうございます。
いまは開業されて何年目なんですか?
高橋享平氏(以下、敬称略):8年目ですね。
通販とかはやっていらっしゃらないんですよね。
享平:基本的には、ここにいらっしゃるお客様だけでやっております。よく「そんなんでやっていけるの?」と言われますけれど。まあ、田舎で、2人の店なので、その辺は意外と大丈夫で。その土地に根ざした「町の豆腐屋さん」みたいな感じがやりたかったんです。
あと僕のこだわりとしては、ビールを作って、注いで、全部一貫して最後まで責任を持ってお客さんに届けたいんですよね。普通は、ビールって分業なんですよ。そこをあえて、すべて自分たちでやりたいなと。よく老夫婦が大根を持って「私たちが作ってます」みたいな写真あるじゃないですか。あれもめっちゃ好きで。そういうこだわりがあって、「じゃあ2人だけでできることをしよう」って決めたんですよ。

店のなかの醸造所でビール造りをする享平さん

それは素敵ですね。おふたりは芸大を出られたと聞いたのですが。学生のときにそこで知り合われたんですか?
尚子:はい。芸大の音楽学部ですね。
音楽学部からビールって、かなり想像がつかない経歴な気がするんですけど、どういう過程だったんですか。
享平:でも僕たち、芸術大学のなかでは、アーティストというよりは技術者で、アーティストを支える分野にいたんですよ。具体的に言うと、放送局とかスタジオとかにいる、サウンドエンジニアみたいな裏方さんですね。大学生の頃は、映像に音つけたりすることがすごく好きで、映画業界とか放送局とかそういう就職先を考えていたんです。
そこからどうしてビールへ?
享平:ビールづくりも、「モノを作る」という意味では共通しているじゃないですか。僕にとってはビールというのは、アートとは言わないですけど、作品の一つなんですよね。自分の思いがある作品を作って、それを対象の方に届けるという意味では、同じことをやり続けてるつもりなんですよ。
なるほど。おもしろいですね。

箕面ビールの
おいしさに感動し、

ビールづくりの道へ

尚子:大三島に来たのは、田舎暮らしがしたかったからなのですが、そこに行き着くまで少し長い経緯がありまして。大学時代、彼が一個上の先輩で、同じゼミで音響の仕事を目指すべく過ごしてました。途中で彼がビールにハマって、東京から大阪の箕面ビールというところに行ったんです。
箕面ビール!大好きです。一時期通販で取り寄せていました。
尚子:本当ですか?箕面ビールを関東のイベントで飲んで、すごくおいしくて。
享平:僕は箕面ビールと出会って「こんなにおいしいビールを作れるような人になりたい」と、突然ビールの方向に向いちゃって、そこから箕面に行ったんですよ。

しっかりとホップの苦味と香りがあり、
箕面ビールを彷彿とさせるIPA。

箕面ビールで修業されたってことですか?
享平:そうです。それも当初は独立前提でやっていたわけではなくて、もう「ここのビールが好きです!」という感じで箕面に入って。最初はアルバイトでしたが、それもなんか押しかけ女房で無理くりねじ込んだ感じですね(笑)。
尚子:その頃、私は大学を卒業してはいたんですけど、彼が箕面ビールで正社員にしてもらえる話が出たときに、箕面ビールは箕面にしかないので、これはもう箕面行くしかないなと思って、東京から大阪に行ったんです。彼は箕面ビールに正社員で入って、私はパートでお手伝いさせてもらってました。

旅先で「こういう場所に住みたい」と
思っちゃったんですよね。

その頃は結婚されていたのですか?
尚子:箕面に行くと同時に結婚しました。箕面ビールで彼はやりたいことをやっていたし、私もなにか手伝えればと思ってやっていたのですが、あるとき休みを利用して、一人旅で屋久島に私が行ったんですよ。前から行きたいと思っていたのですが、実際行ってみたらすごく魅力的で、「こういう場所に住みたい」と思っちゃったんですよね。そこから田舎暮らしのことで頭がいっぱいになってしまって。
享平:僕は箕面ビールで一生働きたいなーと思っていたのですが、妻の方は実はお酒が飲めなくて、めちゃくちゃビールが好きとかではないんですね。それでも一緒に箕面ビールで働いていて、僕がずっと働いて家に帰らないみたいな生活だったんです。そんな感じで何でも挑戦させてくれていたのですが、ある日、「私も夢が見つかった」「田舎に行きたい」と。
でも、僕ばかり好きなことやってるのもいびつじゃないですか。それで、じゃあ「一旦、屋久島に行ってみよう」って、旅行で行ったら僕もハマっちゃって(笑)。
なるほど。そんなによかったんですね。
享平:はい。すごくよくて、「アニミズムとはこういうことか!」みたいな。当時若かったし、20代半ばで、勢いだけで生きてる時代だったので、「よっしゃ移住じゃい」みたいな(笑)。で、会社にも「ずっと箕面ビールで働こうと思っていたんですけど、僕ら2人の夢みたいなのができて」「全然言ってなかったですけど独立したいと思ってます」と相談をして、もちろんすごく応援もしていただけて、そこから田舎に移住!という方向になったんです。尚子が好きなところに移住して、僕が好きなビールをやろうかみたいなのがざっくりとしたプランでした。
屋久島ではなくなったんですか?
享平:最初は屋久島で計画していたのですが、調べていくと、屋久島でビールやりたいという人が何組もいたんですよ。それだけでも結構きついなぁと思ったんですけど、さらにハードルが高すぎて。ビールって設備産業で、基本的に電気で動かすんですけど、屋久島は田舎すぎて、しょっちゅう停電が起きたり、すべて船便になるので、原材料の仕入れも大変だったり。それで、「行きたいのはわかるけど、移住先じゃなく、遊びに行くとこにしよう」って彼女を説得したんです。

ひとまず大三島での
生活をスタート

享平:現実的に一回考え直そうということになって、そこで僕はたまたま松山生まれで、しまなみ海道を知っていて、いまから約10年前ぐらいのしまなみ海道って、まだこんなに注目されていないというかこのエリアもクラフトビールは一軒もなかったんです。流通面とかも問題ないし、アリだねってなって。それで、まだ何も決まってないけど、「もう暮らしてみよっか」って、まずは田舎暮らしから始めちゃったんですよ。
すごい行動力ですね!仕事はない状態で?
享平:はい。まず大三島に移住しちゃって、暮らしながら考えようって。蓄えだけで、あとはバイトしまくればなんとかなるだろ、みたいなノリで来たら、本当になんとかなったみたいな(笑)。
バイトって例えばどんなことをされたんですか?
享平:いろいろしましたよ。どこも人手不足なんで、旅館のアルバイトとか、ワイナリーの畑手伝ったりとか。農協でみかんをひたすら運んだり、そのあと農協が運営してるガソリンスタンドの人手が足りないから入ってって言われたり。口コミで、「暇にしとる若い夫婦がおる」って伝わって(笑)。じゃあこっちも人出足りないからっていろいろ声がかかりました。
そのうちに「うちの子に勉強教えてくれない?」っていう方がいて、「僕、実家が塾やってるんで教材取り寄せてやりましょうか」って。
何でもできるんですね!(笑)
享平:それで他にも勉強習いたい子を集めていただいて、空いている小屋借りて勉強を教えていました。最後はこの店を教室にして、しばらく教えていましたよ。8時まで店やって、閉店後に教えていました。最初に教えた小学生の子が高校受験まで行くまでは見てあげたいなと思って。
それで、けっこうなんでもやって、「あれ、このまま暮らせんじゃね?」みたいになっちゃって。「違う違う違う、オレらビール作りに来たのに」みたいな。
でもそうしているうちに島の人とも仲良くなったり、旅館で働いてるときは、お客さんとも仲良くなって、「私たちいつかビール作ろうと思ってるんで、またこの旅館泊まって飲みに行ってくださいね」とか言ってたり、あれはいま思うといい時間でしたね。
そこからどういう風に進んでいったんですか?
享平:最初は島の不動産屋さんに相談したりしたんですけど、なかなか物件はなくて、それでとにかく時間がかかりました。
このあたり空き家は多そうですけれどね。
享平:空き家はあるんですけど、売りに出す人がいないんですよ。「自分の代で家を売るのはちょっと」とか、意外と多くて。仮に手放したくてもいろいろお金がかかりますし。実は最初はもっとこの中心街から離れた、景色のいいところを探していたんです。やっぱり景色いいところでビール飲むと気持ちいいし。
でも僕らの店って、ビールだけなので、周りに旅館とか食べ物屋さんがないと成り立たないんです。車で行ったら飲めないし、旅館から徒歩圏とか、お腹空いたら2軒目に行きやすいとかも大事だし、じゃあやっぱり景色とかより、他にお店がたくさんあるエリアの方が正解じゃない?っていうところから、またプランを変えて。
次第に自分たちで物件も探すようになりました。じろじろ見て歩いて、「ここ絶対空いてるよね」みたいな(笑)。で、その辺の人たちに「すみません、あそこの持ち主の方をご存じないですか」って聞いて。「あそこで商売してる人の親戚が持ち主よ」みたいな感じで教えてもらって、そこに行って話して、つないでもらって。そこから「手放してもいいかなと思ってるよ」みたいな感じで、やっとここが買えたんです。
それは大変でしたね。建物はリノベーションしたんですか。
享平:工場の方とかは、もちろん耐水パネル貼ったりとかいろいろやっていますけど、お店側はもうDIYできる範囲で。壁塗ったりとか、多少は大工さんにやってもらいましたが。とにかくお金がなかったんで、もう自分らでできることはやろうという。

古民家を再利用した店内

でもすごく素敵な感じになりましたね。
享平:本当にノープランですよ。僕座布団とか古民家に残ってたものをそのまま再利用しているし、最初はテーブルとかもここに残されてたものを全部使っていたんですよ。いまは使いやすいものに少しずつ買い直していって。

箕面ビールの継承と、

僕ららしく
大三島らしい味。

ビールの味は、ここへきてから開発されたんですか?
享平:そうですね。もちろん箕面ビール時代に製造にも携わっていたのですが、せっかくなら、僕ららしいものをここで作りたい。僕ららしさと大三島らしさみたいなことを考えて、完全オリジナルのものをこっちに来てから作っていますね。

カカオを使ったカカオブラック

箕面ビールのスピリットみたいなのは入っているんですか?
享平:それはもちろん入っています。やっぱり箕面ビールのいいところって、何飲んでもおいしいし、バランスがめちゃくちゃいいんですよね。奇を衒わず、説得力のあるビールなんですよ。それは継承したい。うちも基本的には飲みやすいし、バランスがいいし、飲み続けられる。一口飲んだときのインパクトっていうよりは、なんだか、いつの間にかスイスイ飲んでいるようなものを目指していて、そこは箕面ビールを継承しているところですね。
なるほど。そして大三島の食材を使うところでオリジナリティを出されているんですか?
享平:はい。大三島って柑橘の島なので、例えばホワイトエールというのがあるんですけど、それはもう島の柑橘をビールに取り入れていて、それはまさに大三島らしい一品ですね。

季節の柑橘を使ったホワイトエール。
このときはゆずでした。

享平:一度に提供しているのは5種類なんですけど、僕の気分でラインナップは変えていて、「来月こんなの飲みたいな」みたいなのを作っているんです。準定番が全部で7つぐらいあるんですよ。それをぐるぐる回してる。さっき言ったホワイトエールと、ブロンドエールというのは必ずある定番商品で、それ以外の3種類ぐらいを季節とか気分とかで変えています。
でもやっぱり通販をやっていないだけ自由なんですね。
享平:それあります。酒屋さんやスーパーに卸したりとかもしないので、もう自由なんですよね。「来月何飲みたいかな」とか、常連さんに「あれ久々に作ってよ」って言われたら、「いいっすよ!やりましょうか!」みたいな。だから常連さんは飽きないで通ってくれるっていう。うち、リピーターが多いところが強みなんです。最初は観光客だけかなと思っていたんですけど、地元の方が誰か連れてきてくださったりとか。
移住者の方にインタビューしていてもよくここの話が出るのですが、コミュニティのようにもなっているのでしょうか?
享平:本当ですか?悪口言われていませんか?(笑)。
飲み屋ってみんなそうだと思うんですけど、いろんな方に来ていただける機会が多くて、移住者の人もいれば地元の人もいるし、観光の人がいたり、インバウンドの人がいたりとか。結構ここの土間席はぐちゃぐちゃ席なんですよ。一人で来た人がポツンといて、そこに地元の方が座って、いつの間にか交流が発生するんですよ。

お二人が座っているここが、入ってすぐの土間席。

ビールで言うと何が人気ですか?
享平:これ難しくて。どのビールにもそれぞれファンがいて、自分はこれしか飲まないっていう人もいれば、その日の気分で順番考えながら飲む人もいるし。やっぱり観光の人は、大三島らしいものくださいっていうチョイスになるので、柑橘使ったホワイトエールが人気ですね。
さっき常連のお客さんにお聞きしたら、豚トロベーコンがおすすめだから取材しなきゃダメだって言われましたが(笑)。確かに脂がジューシーで本当においしかったです。ビールだけじゃなくて、こういうのも出されているんですね。
享平:ビール飲んでると、脂もんが欲しくなるっていう方が多いので用意しました。嫁がワンオペになるときも多いので、簡単なおつまみぐらいで、本格的な食事は提供してないんですよ。

常連のお客さんにおすすめされた豚トロベーコン。

常連のお客さん。大三島や今治市内など近場からいらしていました。

テイクアウトはペットボトルなんですね?
享平:少量生産で対面販売を基本としているので、瓶や缶に詰めて流通に乗せることはしていないんです。ただ、お車や自転車で来られる方も多いので、ペットボトルにビールを詰めて、持ち帰ることができるようにしています。冷蔵保管で賞味期限は10日間です。店舗でビールを飲めない方も、おいしくお持ち帰り頂けます。
どのビールもおいしかったですが、やっぱりゆずのホワイトエールは忘れられない味ですね。
享平:ありがとうございます!ホワイトエールは定番なのでだいたいあるのですが、例えばカカオブラックなどのメニューは、そのときどきに作っているものなので、あったりなかったりします。そのときはまたそのときにしか飲めないビールを楽しんでいただければと思っています。

大三島ブリュワリー
https://www.omishima.beer

箕面ビール
https://www.minoh-beer.jp

※本記事で紹介する商品・サービスは、20歳以上の方を対象としています。
未成年者や妊娠中・授乳中の方の飲酒は法律・健康上推奨されておりません。


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