2017.06.12 |今治タオル 本店リニューアル記念トークセッション|インタビューVol.4

ブランディングには、
ストーリーが大切なんです

   岡田武史氏    
× 佐藤可士和氏  
  × 近藤聖司理事長

SPECIAL TALK SESSTION

4月26日(水)今治タオル本店リニューアルオープンにともない、FC今治オーナーの岡田武史氏をゲストに迎え、今治タオル工業組合の近藤聖司理事長、佐藤可士和ブランディングプロデューサーとのトークセッションが開催されました。当初は、軽く一言ずつ…の予定でしたが、岡田武史氏のトークが炸裂し、会場は爆笑の渦に。その模様をお届けします。

 
岡田武史 TAKESHI OKADA
早稲田大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグでのチーム監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。

佐藤可士和 KASHIWA SATO
博報堂を経て「サムライ」設立。進化する視点と強力なビジュアル開発力によるトータルなクリエイションは多方面より高い評価を得ている。今治タオルプロジェクトでは、ブランドマーク&ロゴデザインやオリジナルタオルのデザインをはじめ、今治タオルのブランディング・プロデューサーとして参加。

近藤聖司 SEHIJI KONDO
1957年生まれ。祖父が創業した近藤タオル工場(のちの近藤繊維工業、現在のコンテックス)に1989年に入社し、2012年に4代目代表取締役社長就任。2013年より四国タオル(現・今治タオル)工業組合理事長を務める。

産地ブランディングは、
一社だけよくてもダメなんです

今日のトークテーマは、「地域を活性化する今治ブランドとは」です。よろしくお願いいたします。みなさんはこうして会われるのは初めてでしょうか?
佐藤可士和氏(以下、敬称略):3人では、初めてですね。
岡田武史氏(以下、敬称略):初めてだね。
それでは、まず佐藤さん、今治タオルのブランディングプロデューサーとして活動されてきましたが、この今治という街に対してどんな印象をお持ちでしたか?
佐藤:そうですね。10年前にブランディングを頼まれたときは、本当に、これといって何もなかったんです(笑)。でもここ何年かで、いい気が流れてきているといいますか、今治という地にパワーが集約してきている気がします。
それまでPRできていなかった部分が、今治タオルをきっかけに知られてきたような感じがありますね。
佐藤:タオルのこともあると思うけど、しまなみ海道が自転車の聖地になったり、ゆるキャラのバリィさんが有名になったり、岡田さんがいらしたり。もともと魅力的なものもあったことに加えて、本当にいろんなことが起きましたよね。
最初に始めたときには、さすがに今治の本店をつくっても人が来るとは思えなかったんです。でも最近は、どんどんこちらに人が来てくれるようになって、ずいぶん変わったなと。逆に、みなさんそんなに来てくださるんだったら、もっと魅力的な場所をつくればもっと来ていただけるのかなと。
近藤理事長、今治タオルがここまで成功したのは、どういった要因が大きいと思われますか?
(今治タオル組合近藤理事長)
近藤聖司氏(以下、敬称略) :いちばん大きかったのは、やっぱり佐藤さんにお願いしたことですよね。あとは地域がまとまったこと。他の産地から、地域がまとまらないと言う話も聞くんですけど、でも我々だって、別にみんな仲いいわけじゃないんですよ(笑)。
何故まとまったかというと、3年目で結果が出たから。急にこうなったわけじゃないんですけど、風向きが変わった、潮目が変わったという、そういうのをみなさん肌で感じたと思いますよ。
つまり、産地ブランディングは、1社だけよくてもダメで、ブランド全体、産業自体、街自体が上がっていくことが大切なんです。
結果が出たことで、みなさんの意識もひとつになったということですね。
近藤:まあ、つまりどれだけお金が儲かったかということです(笑)。

(会場 笑)

それは大事なことですよね(笑)。岡田さんは、今治タオルの大ファンと伺っておりますが。
岡田:もう、僕はかなりの高額購入者ですよ。ポイント制とかないんですか?(笑)南青山店も行ってますし、贈り物は、全部今治タオルですから。
近藤:ポイント制考えておきます(笑)。
たしかに贈り物にすると、すごくよろこばれますよね。
岡田:ものすごくありがたいのは、いろいろ考えなくてすむこと。みんな今治タオルは知っているし、いいものだというのは間違いないし。たとえば蟹を送っても蟹が嫌いという人はいるけど、タオルは嫌いだからいらないという人はいませんから。

ブランディングって、
マークつくるだけかと思ったら違うんですね

日本のサッカー界を牽引してきた岡田さんがFC今治のオーナーになられてものすごく話題になりましたけれど、まず今治に来られたとき、この地の印象はいかがでしたか?
岡田:最初はタオルしか知らなかったですね。ここに住むことになって街を見て、いろんな情報を集めたら、タオルはいろんなメーカーがあるし、造船だけでもすごい会社があるというのがわかってきた。でもね、街を歩いていたら、交差点のところに大きな更地があるんですよ。今治大丸の跡地のところ。そして、パっと商店街を見たら、ひとりも歩いていない。昼間ですよ? 大げさじゃなく、ひとりも歩いてなかったんです。「なんだこれは」と思って。
(FC今治監督の岡田さん)
岡田 :FC今治が、いくらいいサッカーをして、強くなっても、その立つ場所がなくなってしまったらどうしようもない。なので、自分のチームだけでなく、今治全体を底上げしていかないと、と思ったんですね。
で、「今治モデル」ということで、少年団とか、小・中・高校まで全部まわって、全体でひとつのピラミッドをつくりましょうと。
そこでは岡田メソッドを無償で学べるという風にしていけば、その頂点のFC今治がおもしろいサッカーをして強くなれば、全国からサッカーを学びたい子や指導者が来るだろうと。

それだけではたかがしれてるから、いろんなスポーツの力でそれをやったらどうかなと。
 
岡田:15000人入るスタジアムは必ずJ1に上がるときにいるわけですよね。そしたら、それを複合型のスマートスタジアムにできないか。レストランとかホテルとか健康診断できるところとか、いろんなアイデアを出して、プロフィットセンターになっていくような場所をつくれないかと。
そういうことを考えていたときに、南青山店で可士和さんとブランディングの話をしたんですよ。あのときびっくりしたんですけど、ブランディングってマークつくるだけかと思ったら違うんですよね。ストーリーからずっとつくられて。
それがすごく参考になったんです。
スタジアムを建てるっていったってお金がいるでしょ。一体どうしようかなと(笑)。でも建つんですよ。たぶん建ちます!(笑)

(会場 笑)

岡田:で、いろんな企業に投資をしてもらおうかなと。今治はまだそんなに投資価値ないんだけど、全体のストーリーをブランディングすれば、とがった企業が投資したいと思うかもしれない。
佐藤:NHKの『おはよう日本』というお正月の番組でいろいろお話ししたんですけど、あれが少しでも役にたったならうれしいです。
岡田:今治タオルは価値があったからよかったんですよ。オレのほうはまだそんな質がないものをあるように見せようとしている、究極のブランディング(笑)。

日本人のラッピングに、
フランス人はみんな驚く

今治という地に、しっかりと核となるものをつくろうという。その思いはみなさん同じなんですね。
岡田:それは、タオルが有名になっていたというのが大きいです。たとえば今治を聞いたことがないという人が多かったら厳しかったと思うんですけど、「今治? ああ、タオルの」と言われるから。
佐藤:10年前には「今治」を読めない人もいて、だからロゴの表記の仕方もアルファベッドにしたんですよ。そういうことも含めて、記号をシャープにしていくと、ブランディングの効率も上がりますよね。
漢字で書いた今治と、カタカナで書いたイマバリは、ビジュアルでいうと違うものだから、それをひとつに決めることで、イメージがブレなくなっていく。意外にそういうことも大事なんです。


岡田:漢字と、横文字と、両方使うよりも、ひとつにしぼったほうがいいの?
佐藤:ロゴの場合は。もちろん報道されるときや文章にするときは違いますけど。ロゴを、たとえばマークだけ決めて、ブランド名の表記をアルファベッドや漢字やカタカナが混在していると、それはブレてしまいますね。
岡田:うちも、物販で『FC今治』と入れるんですよ。デザイナーさんによって、FC今治を斜めに入れたり、横に入れたりするんだけど、そういうのも統一したほうがいいの?
佐藤:それは…すごく具体的な相談ですね(笑)。

(会場 笑)

佐藤:まあ、後で見せていただければ(笑)。
岡田:時間あります?(笑)
どういう風に変わるのか楽しみにしたいと思いますけど(笑)。
近藤さん、このリニューアルのアイデアをもらったときに、どういう風に思われました?
近藤:佐藤さんは実際に今治まで来られて、機械も見て、天井裏とか、そんなところまで上がって大丈夫かなと思うくらい細かいところまで見て、検証されて、何回もシミュレーションしていましたね。正直、お金もそこそこかかりました(笑)。横でドキドキしながら見ていましたけど。そして最初、あの織機をモチーフにしたアートワークを見て、感動しました。あの織機に用いる「通じ糸」をトリコロールでやるという発想が全くなかったんです。


佐藤:なにか覚えてもらうポイントをいくつか作った方がいいと思って、そのアートワークと、さきほどご紹介したアイコニックな什器と、あとはカウンターもお客さんと触れ合う場所なので象徴的にしたほうがいいなと。長い理由はいくつかあって、ひとつはお客さんがたくさん来たときに対応できるように。あとは配送ニーズも多いので、ここでラッピングをしたり、ひとつの作業が気持ちよくできるように。
ラッピングもひとつの演出になりますね。
佐藤:そうですね。きれいにラッピングしてくれる様子を見せるということと、そのバックに、ブランドを象徴するアートワークがあるという。そのふたつがセットです。
近藤:日本人のラッピングって、海外の方から見ると手品やっているみたいに見えるらしいんですね。南青山のお店で検証済みなんですけど。
佐藤:それは本当にそうなんですよね。ついこの前も、文化庁の文化交流使に選ばれて1ヶ月海外をまわっていたんですけど、そのときいろんなクリエイターと交流したんですが、パリのすごく有名なファッションデザイナーに日本のラッピングのことを言われました。「なぜあんなことができるのか。みんなフランス人は驚く」と言ってました。 我々日本人は気づいていないことですけど、それもある意味、ジャパンブランドの品質のよさをアピールすることにつながるのかなと。
岡田:そしたら近藤さん、よく鉄板焼き屋さんで料理を投げたりするじゃない。そんな技を入れたら?

(会場 笑)

こういうお話を聞いて、岡田さんご自身も、サッカーの面で参考になる部分がありますか?
岡田:サッカーの面というより、いまは経営のほうに必死なので、きちんとしたコスト管理とか、いろんなことをやらないといけない。変な話、死に物狂いでやらないと。でもそういうときに、夢を語らないと、もたないんですよ。夢の力でみんな集まってくるし、なんとかがんばっている。
でもね、2年半もしてくると、夢ばっかりじゃもたなくなってくるんです(笑)。

(会場 笑)

岡田:そういうときに、ブランドのストーリーがものすごく効いてくるんですよ。いま僕たちは、村上水軍の末裔で、大海原に飛び出していくというストーリーをつくっているんですが、だからユニフォームは、海の群青がベースで、船の航跡の白と、太陽の黄色なんだと。
じゃあスタジアムはどういう風にするの? 俺たちはこれから海外に出ていく船だと。鳴り物とか旗を持った人がいる。でもお年寄りの方はそういうのが好きじゃない。じゃあメインスタンドはきちっと座って見てもらって、キックオフのときに汽笛をならそうかと。迎える側は、セーラー服着たり、キャプテンクックの帽子をかぶってみたらどうかと。そういう、みんながワクワクするような話が盛り上がってるんですね。
そういうストーリーをつくることが、ブランドにつながってくるんですよ。今治タオルの例が勉強になりましたね。
(今治タオルLABで5秒ルールにトライする岡田氏)

今治タオルLABで5秒ルールにトライする岡田氏

タオルでユニフォームをつくったら、
おもしろいよね

さきほど新プロジェクトの発表もありましたけど、まずはFC今治とのコラボレーションということで。
岡田:本当にやってもらえるのかな(笑)
近藤:けっこう岡田さんハードル高いですからね。以前、ユニフォームをつくれといわれたんですけど。
岡田:うちのユニフォームをタオルでつくったらおもしろいんじゃないかなと思ったんですよね。
近藤:実際つくったら、汗を吸って、重くて走れない(笑)。

(会場 笑)

佐藤:それ、トレーニング用にいいんじゃないかな(笑)。
じゃあ、なにか新改良がこれから加えられることがあるかもしれませんか?
岡田:ほんとにタオルでユニフォームつくったらすばらしいと思うんですよね。その技術開発をぜひお願いします。
近藤:長いストーリーになりそうですね。私もしっかり次の世代に伝えておきます(笑)。
そう考えて行くと、今治にはまだまだ活かせるものがありそうですね。どうですか、佐藤さん?
佐藤:はい、いろいろあると思いますよ。でもさきほどの話でいうと、本当にストーリーはすごく大事で、人間って、文脈がないと覚えられないんですよね。コンテンツだけポツンポツンと言われても、脈絡がないと覚えられない。でもストーリーごと覚えると理解ができるんです。今治のなかにもいろんなコンテンツがあるんですけど、もともとあるストーリーをみつけていくとか、もしくは一緒につくっていくとか。そういうことができると、今治全体がブランディングできるのではないかなと思います。
岡田:僕はずっと長年、今治で野外体験教育みたいなことをやっているんですよ。こんど、13泊14日無人島体験てやるんですけど、ぜひ参加してください。ものの見方考え方が変わりますから。海があって、島があって、そういう意味では最高の場所だなと。で、橋が渡って尾道まで行けるようになったでしょ? 自転車がすごい人気なんですよ。でもしんどいんですよね…。

(会場 笑)

岡田:このまえ大三島まで、必勝祈願に自転車で行こうということになって、菅 今治市長と一緒に行ったんですけど、市長は自転車が得意でね、絶対あの自転車なにか仕掛けがある(笑)。こっちはけっこう必死でこいでるのに差がついていくんですよ。
市長はバリバリですもんね。自転車にお年は関係ないみたいですよ。
岡田:じゃあ俺が弱いだけか(笑)。その大三島の裏側って、すばらしいところなんですよね。あそこで夕日が沈むのを見ていたらね、いつまでもいたいと思いますよ。
近藤:あそこの夕日は本当にすばらしいですね。
しまなみ海道も世界から注目されていますし、新しいものをみつけていけば、今治もどんどん新しいブランドができていきそうですよね。 地元の人間は気づいていなかったりするので、そういった景色を見て感動した方に発信していただくのが一番という風に思いますね。岡田さん、どんどん発信してください。
岡田:僕もね、忙しいんですよ。

(会場 笑)

重々承知しております(笑)。では、改めて最後にひとこと、近藤理事長お願いします。
近藤:地域が元気になるって大事なことで、地域の方も昔はタオルタオルって言わなかったけれど、いまは自信を持ってタオルのことを言える。それは佐藤さんのような外の方が価値をみつけてくださったからだと思うんです。自分たちで気づければ一番いいんですけど、佐藤さんや岡田さんのような方に、ここがいいという風に外からアドバイスをいただきながら、いまあるものに価値をつけていければいいなと思うので、みなさんこれからもよろしくお願いいたします。

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