2017.01.06 |後編|岡田美里さん|インタビューVol.2

女の人は、ふだん使えるものが好きなんですよ。

ご自宅では刺繍教室をされているとのことですが、今回、今治タオルに刺繍していただいたんですよね。
(写真上:美里さんが刺繍された今治タオル。 )

写真:美里さんが刺繍された今治タオル。



岡田:はい。ハサミに糸のデザインですね。ここはアトリエでもあるので、洗面所に掛けておけば、いらした生徒さんが見たときにぴったりかなと。
刺繍教室では、美里さんが柄を考えるんですか?
岡田:いろんなパターンがありますけど…普段の生徒さんと刺繍するときは、既存の図案を使っています。 私は作家ではなくて、どちらかと言うと普及をする人間だと思っていて。モデルから始まっていることもあって、ブランドや刺繍の普及をする立場だと思っているので。教室では、クロスステッチの楽しさを皆さんに伝えながら、指導者を育てているみたいな感じでしょうか。そこで人気があるのが、タオル刺繍です。
それはどうしてなんでしょう?
岡田:使うものだからじゃないでしょうか。何個も何個も壁掛けばかり作るより、ふだん使うものに自分が刺した刺繍が加わるほうが、癒しのアイテムになるし、満足度も高い。やっぱり女の人って使えるものが好きなんですよ。ポーチとか。なかでもとにかくタオルの刺繍は大人気です。

(写真:今治タオルに刺繍する美里さん)

写真:今治タオルに刺繍する美里さん

今回刺繍していただいたのは今治のオリムさんのタオルでしたが、刺繍しやすかったですか?
岡田:はい、すっごく楽しかったです。いいタオルで、刺したときの感覚が気持ちよくて。このふくれ織りになっている部分に、いわゆる抜きキャンバスっていう、最後に糸を抜く技法をやったんですけど、タオル自体に厚みがあって密集度が高いから、針を刺したときにサクッ、サクッ、サクッていうんですね。それが本当に気持ちよかった。刺した後に生地がよれないんですね。密度が高いから。

(写真:抜きキャンパスを使っての刺繍)

写真:抜きキャンパスを使っての刺繍

そうですね。あのタオルはたしかに密度が高く織られているものです。
岡田:フランスから取り寄せた刺繍用のタオルがあるんですが、それはもう刺繍用のものだから仕方ないんですけど、もっとそこの部分が薄いんですね。この今治タオルは、それに比べて密度が高い。ですからたぶん洗濯しても、刺繍も解けないだろうし、長持ちしそうな感じがします。

これから私の生徒さんにも、あのタオルに刺繍をすることを教えてあげようと思いました。
ありがとうございます。ぜひお願いします(笑)。
群馬県高崎市の産婦人科 舘出張 佐藤病院の『ベビーおくるみ』も今治タオルでデザインなさっていますよね。
岡田: はい。その佐藤病院の院長先生が、もともと私の幼稚園のときからの幼馴染なんですね。高崎の百貨店で丸山タオルさんのイベントをやったとき、その院長のご家族みなさんでいらしてくださったの。で、「うちもタオル何か作りたい」というお話になって。

(写真:美里さんデザインのベビーおくるみ)

写真:美里さんデザインのベビーおくるみ

このベビーおくるみは、美里さんのご提案だったんですか?
岡田:はい。私が子育てしていたとき、赤ちゃんの頭がすっぽり入るこの形が、とても便利だったから。
その佐藤病院で出産しないともらえないものなんですよね。使った方からはとても好評だったとお聞きしました。
岡田:そうなんです。一時期なくなって、5〜6年あいたんですけど、最近また復活したんです。それは、当時のおくるみをお持ち帰りになったママたちが病院に戻って来て、「あれが良かった、あれが良かった」って言われたらしく。
たしかに、これは市販されても人気出そうですね。

人の目にふれないものにこそ、
気を使いたい。

(写真:愛犬とご自宅のテラスで。)

写真:愛犬とご自宅のテラスで。



毎日の生活の中で使うタオルは、どんなことを考えて選んでらっしゃいますか。
岡田:普通みなさんタオルって、ぺっちゃんこになるまで使ったりするじゃないですか。でもわりと私は、タオルを頻繁に買い替える方です。
だいたい2年以内には、家中のタオル全部変えるんです。その方が気持ちいいじゃないですか。
それは、父の影響なんです。父の介護のために一緒に住むようになったときがあったんですが、私が子育て真っ最中で身のまわりにもあまり構っていられない時期だったんですね。そんなときのひどいタオルを父が見て「今からタオルを買いに行こう」って。その当時、石田純一さんが駒沢で高級なスペイン王室御用達のタオル屋さんをやっていて、すごく高かったんですけど父がそこで全部買い替えてくれたんです。「美里ちゃん、こうやって人の目に触れないものこそ、きちんとしたものを使うことが、人間の豊かさなんだよ」って。
それは素敵なお話ですね。
岡田:それで、その日からうちのタオルが全部、綺麗なサーモンピンクのタオルに変わって。それから何年かに一回、タオルを全取っ替えするようになったんです。バーゲンでまとまった数があると全部買ったり。古いのは雑巾にしたり、犬を拭くのにしちゃったり、そういうのにランクダウンしていって、自分たちはいつもきれいなのを使っていますね。

(写真:タオルはいつもきれいなものを。)

写真:タオルはいつもきれいなものを。

タオルって、いいものはそんなに安くはないじゃないですか。一斉に買い換えるって、けっこう大変ですよね。
岡田:はい。でも私、全然、洋服を買わないんです。あまり人からそう思われてないんですけど、私の身近な人は「驚くほど服を買わないよね」ってみんな言います。だから家にお買い物の大きい紙袋も一切溜まらないし、何年も前の服を着ています。その代わり、インテリアまわりのものはすごい買うんです。百貨店でもインテリアショップとインテリアフロアにしか行かないし、海外ロケに行っても、自由時間は絶対にデパートのインテリアフロアに行きます。お洋服フロアは、ほとんど行きません。
お着物は?
岡田:着物は、母やお婆ちゃんのがあるから。それも古いもの。たまに新調しますけど。お呼ばれのときはそういう着物で行きますね。お洋服でお呼ばれに行こうと思うと、もう一年、半年違うと靴もトレンドが変わってしまうし、私はそういうトレンドの物を買いに行ったりすることが、すごく面倒くさいんです。なんだか試着室とかも恥ずかし過ぎて。
美里さん、だいぶイメージと違うんですね…。やっぱり生活の中で使うものがお好きなんでしょうか。
岡田:そうですね。暮らし周りのものが好きですね。インテリアの色のバランスなどを考えるのが好きです。
お部屋にも、アンティークの家具が多いですね。
岡田:祖母がデンマーク人なので。祖母は戦争を経て、最終的に日本で暮らすようになって。100年以上前だから、デンマーク人と日本人の国際結婚ってすごく珍しい時代でしょ。ヨーロッパの家族って代々家具を譲ったり、いい物を長く譲っていくカルチャーがあるけれども、祖母はそういう理由で日本に来たので、銀のカトラリーとロイヤルコペンハーゲンのちっちゃい小皿しか国から持って来られなかったんです。「これしかあなたたちに渡せなくてごめんね」という感じで。そういう話を聞いていたから、私は自分の子供に譲るものはデンマークの家具にしようって思って。何年もかかって集めました。

女性がしあわせなら、
社会がしあわせになるかなって。

東松島ステッチガールズの活動も、デンマークつながりだったんですよね。
岡田:はい。震災の被害を受けた東松島を、いちはやく支援したのがデンマークだったんです。それで共感いただいた地元の女性たちや企業のみなさんが集まってきて、東松島ステッチガールズの活動がはじまりました。 「東松島に新しい産業を」ということで、デンマークの伝統工芸であるクロスステッチを、地元の女性たちで結成したステッチガールズのみなさんに伝授し、ものづくりをするという活動なんですが、これは2年連続で復興庁の「新しい東北」先導モデル事業に選ばれました。
今治タオルともコラボレーションしていただいていますね。
岡田:このイニシャル刺繍入り今治タオルハンカチをつくっています。このアルファベットは、ひとつひとつ私がデザインしたものです。

(写真:東松島ステッチガールズ「イニシャル刺繍入り今治タオル」)

写真:東松島ステッチガールズ「イニシャル刺繍入り今治タオル」

これからの目標とか夢みたいなものはあるんですか?
岡田:やっと子供たちが自立してくれて、今年はなんだか自分の中で自由な発想が湧いてきている感じがあって。毎日子供を学校へ送り出す生活が終わって、はじめてスタートラインに立った感じがしてるんです。 来年はデンマーク刺繍の展覧会も、開催しようと思っています。ステッチガールズも、ゼロから育てて、いま60人くらいになったんですね。東京で刺繍を教えてきた人たちと合わせると何百人になるので、その皆でグループ展みたいな感じのことができたらいいなって。 来年は、日本デンマーク外交関係150周年なんですね。ですから自分のルーツである日本とデンマーク、それをもっと意識して頑張ろうと思っているんです。
美里さんの活動はいつも女性を元気にしている感じがします。
岡田:やっぱり女の人たちのしあわせを考え続けたいな、とは思ってるんです。女の人がしあわせになると、家庭がしあわせになって、子供がしあわせになって、社会がしあわせになるかなって思っていて。その最初のきっかけを作り続けていきたいなと、ずっと思っていることなんですけど。これからは、もっとちゃんと自分で発信するようにしたいですね。
素敵なお話、どうもありがとうございました。

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